2018年11月18日

上り坂の途上の信仰
それは、からし種のようなものである。土に蒔くときには、地上のどんな種よりも小さいが、蒔くと、成長してどんな野菜よりも大きくなり、葉の陰に空の鳥が巣を作れるほど大きな枝を張る。
               (マルコによる福音書4章31節)

 NHKのBS放送で「こころ旅」という人気番組があります。火野正平という60代の俳優さんが、視聴者から送られて来た手紙にある「思い出に残る場所」を目指し日本全国を自転車で回る、という内容の番組です。その火野正平さんが言ったある言葉が有名になりました。「人生、下り坂最高」という言葉です。60代の火野さんが、自転車で上り坂をヒーヒー言いながら漕いで行く、その姿も番組の人気の一つなのですが、いったん坂を上り詰めた火野さんが、今度は下り坂をペダルを1回も漕ぐことなく勢いよく下る、その時に発する言葉が「人生、下り坂最高」という一言なのです。
 その火野さんに、番組の視聴者で30代の人からの手紙が届き、このように書かれてあったのです。「自分はゲームクリエーターとして働いていたけれど、仕事の重圧から心の病にかかり故郷に帰って虚しい日々を過ごしていた。しかし、故郷で出会った海辺の光景に心癒され、また火野さんが番組の中で『下り坂最高』と言う言葉を聞いて「ああ、本当に人生は下り坂もいいものだ」と救われる気持ちになった」と。
 しかし、この手紙に対し火野さんはこうコメントしました。「『人生、下り坂最高』と言うのは言葉のアヤで、自分はまだ下り坂なんて思っていない。今、60歳も過ぎた自分だけれど、まだまだ上り坂を上っている。30代で下り坂なんて考えないで、もっと先があるんだと考えてほしい」そう火野さんは言ったのです。自分の言った一言が、思いのほか評判になって、それは嬉しい反面、若い人がそれを真に受けてしまうことに危惧する火野さんのコメントでありました。コミカルなキャラクターの俳優さんですが、実に真面目な性格の方なのだなと思わされました。
 確かに私たちは、何歳になっても、自分の人生を決して下り坂などと思ってはならないし、生きている限り、まだまだ先があることを覚え、その先へ上り続ける努力は忘れてはならないのだと思います。現実には体も若い時のようには動かなくなり、自分の限界も弱さも覚えざる得ない時は誰にでも訪れますが、そういう現実を知った上で、でも年齢を重ねた分、今その自分に出来ること、語れることもまだまだある。火野さんのように、高齢になったからこそ、若い人に大切なエールを送ること言葉も語れるのです。
 私たちの信仰も、「土に蒔く時」はどんなに小さいからし種のようなものでも、年月を重ねるうちに「鳥もその枝に巣を作る」ほどに枝を張るように、常に飢えへ向かって成長し「上り坂を上り続けて行く」その途上にある信仰ではないでしょうか?その上り坂の途上にある信仰の人生を、私たちが老いや病という重荷を背負いつつも、しかしそれらも自分にしか負うことの出来ない独自の賜物として受け入れ、またキリストが共に負ってくださる栄光ある人生として歩んでいくならば、その私たちの後ろ姿は、これから続く若い世代の希望となり道しるべとなっていくのです。
(2015年11月の祈祷会メッセージより抜粋)